大腸がんとは
大腸がんは、大腸(結腸や直腸)の粘膜に発生するがんで、大腸の内側の粘膜細胞が異常に増殖し、がん化することで発症します。日本ではがんの罹患率が最も高いがんの一つであり、特に50歳以上の人に多く見られます。
大腸の主な構造
大腸は水分や電解質の吸収、腸内細菌による発酵、便の形成と排泄を担う器官で、盲腸・結腸・直腸・肛門に分かれます。
盲腸は小腸と繋がる袋状の部分で、虫垂が付属しています。結腸は消化物の水分を吸収し、便を形成する役割を持ち、上行結腸(液状の内容物から水分吸収)・横行結腸(さらに水分を吸収)・下行結腸(便を固形化)・S状結腸(便を一時的に蓄える)の4つに分類されます。
直腸は便意を感じ、排便を調整する重要な部位です。肛門は、内肛門括約筋(不随意筋)と外肛門括約筋(随意筋)によって排便をコントロールします。
大腸がんの発生箇所
大腸がんは結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)や直腸(肛門に近い部分)に発生しやすく、特に直腸とS状結腸が最も多くの大腸がんが発生する部位とされています。初期の段階ではほとんど症状が現れないため、がんが進行してから症状に気づくケースが多く、早期発見が重要です。
大腸がんの多くは、大腸ポリープ(腺腫)と呼ばれる良性の腫瘍が時間をかけてがん化することで発生しますが、一部の大腸がんは腺腫の時期を経ず、正常な粘膜から直接発生すると考えられています。このようながんの多くは平べったい形をしており、通常のポリープとは異なるため大腸カメラ検査による観察が不可欠です。
ポリープの段階で適切に切除することでがんを予防できる場合もありますが、形状によっては発見が難しいため、特にS状結腸や直腸の精密な検査が重要となります。
大腸がんの症状
大腸がんは初期症状がほとんどないことが多く、進行するにつれて様々な症状が現れます。
特に便の異常、腹部の違和感、全身症状が現れることが特徴です。
便の異常
- 血便や黒っぽい便
(タール便)(便に血が混じる) - 便が細くなる
(腸内のがんが狭窄を引き起こす) - 下痢と便秘を繰り返す
(腸の通過障害による影響) - 残便感
(便が残っているような感覚)
腹部の症状
- 腹痛やお腹の張り
(膨満感) - ガスが溜まりやすくなる
(腸内の狭窄により排出が困難になる) - 腸閉塞
(進行がんの場合)(激しい腹痛や嘔吐)
全身症状
- 貧血(顔色が悪く、疲れやすい)
(がんの出血が原因) - 体重減少や食欲不振
(進行に伴う栄養吸収の低下) - 全身の倦怠感
がんの進行による症状
- 腸閉塞による嘔吐・激しい腹痛
- 肝臓や肺への転移による黄疸や呼吸困難
大腸がんの原因
大腸がんの発生には、生活習慣・遺伝・炎症性疾患など、様々な要因が関係しています。
食生活の影響
動物性脂肪・赤身肉・加工肉の
摂取量が多い
牛肉や豚肉などの赤身肉や、ハム・ソーセージなどの加工肉には発がん性物質が含まれている可能性が指摘されています。
高脂肪の食事は胆汁酸の分泌を増やし、大腸内での発がん物質の生成を促進することが考えられています。
食物繊維の摂取不足
食物繊維は腸内の発がん物質を吸着し、便の排出を促す働きがあります。
野菜や果物を十分に摂取しないと、便秘がちになり、腸内に発がん物質がとどまりやすくなります。
運動不足
運動不足は腸の動きを鈍らせ、便の滞留時間が長くなるため、大腸がんのリスクを高めるとされています。
肥満
特に内臓脂肪が多い肥満は、大腸がんのリスクを高めると考えられています。
インスリンの過剰分泌が細胞の異常増殖を促進する可能性があります。
飲酒・喫煙
アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドには発がん性があり、大腸がんのリスクを高めます。
喫煙は肺がんのイメージが強いですが、大腸がんのリスクも約1.3倍に上昇すると報告されています。
遺伝的要因
家族内で大腸がんの発症例がある場合、遺伝的な要因が関与している可能性があります。
家族歴
両親や兄弟姉妹に大腸がんの人がいると、発症リスクが約2~3倍になると言われています。
若年発症の大腸がんは遺伝的な要因が強いと考えられています。
遺伝性疾患
家族性大腸腺腫症(FAP)
APC遺伝子の異常により、10代から大腸に多数のポリープが発生し、放置するとほぼ100%ががん化します。
リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん:HNPCC)
DNA修復遺伝子の異常によって発症し、40~50代での発症が多いです。
炎症性疾患との関係
大腸に慢性的な炎症があると、発がんリスクが高まります。
潰瘍性大腸炎
長期間にわたり腸粘膜の炎症が続くことで、がん化するリスクが上昇します。
特に発症から10年以上経過した場合、定期的な大腸カメラ検査が推奨されます。
クローン病
小腸や大腸の炎症が持続するクローン病でも、がんのリスクが高まることが知られています。
大腸ポリープからの進展
大腸ポリープ(腺腫)は、がんの前段階となることがあり、特に2cm以上の大きなポリープはがん化のリスクが高くなります。
定期的な大腸カメラ検査でポリープを早期に発見・切除することで、大腸がんを予防できます。
大腸がんの検査と
診断について
大腸がんの早期発見のために、まずスクリーニング検査(一次検査)として便潜血検査を実施し、結果が陽性であれば、大腸カメラ検査を行い、確定診断をします。
便潜血検査
便に微量な血液が含まれているかを調べる検査で、大腸がんのスクリーニングとして広く利用されています。40歳以上は年1回の受診が推奨されており、手軽で費用が安く、体への負担が少ないのが特徴です。
ただし、出血のない早期の大腸がんは検出されにくいため、陰性でも完全に安心とは言えません。陽性反応が出た場合は、精密検査として大腸内視鏡検査を受ける必要があります。
大腸カメラ検査
肛門から細いカメラ付きの管を挿入し、大腸の内壁を直接観察する検査です。高精度な検査方法で、大腸がんの有無を確実に判断できるのが特徴です。
また、ポリープが発見された場合は、その場で切除でき、大腸がんの予防にも繋がります。さらに、必要に応じて組織を採取(生検)し、より詳しい診断が可能です。
大腸がんの進行度や
転移を調べる検査
大腸がんと診断された場合、がんの広がりや転移の有無を確認するために、追加の検査を行います。
画像検査
画像検査による精密検査が必要と医師が判断した際には、連携する医療機関をご紹介させていただきます。
CT検査
(コンピューター断層撮影)
大腸がんの転移を調べるために行われ、肝臓・肺・リンパ節などへの広がりを評価します。
腫瘍の大きさや周囲の臓器への影響を確認でき、短時間で広範囲の診断が可能です。さらに、造影剤(静脈注射や飲み薬等)を使用することで、より鮮明な画像が得られ、診断の精度が向上します。造影剤を使用すると、より鮮明な画像が得られ、正確な診断が可能。
MRI検査
(磁気共鳴画像診断)
肝臓や直腸周囲の転移の有無を詳しく調べるのに適した検査です。
特にCTでは見えにくい柔らかい組織(軟部組織)を鮮明に映し出すことができ、直腸がんのステージ分類にも有効です。また、肝臓への転移が疑われる場合には、高精度な画像診断が可能となります。
PET-CT検査
(陽電子放射断層撮影)
全身のがんの転移を詳しく調べる検査で、特に手術後や再発が疑われる場合に有効です。
がん細胞の活動を可視化し、転移した部位を特定することができ、CTやMRIでは見つかりにくい小さな転移の発見にも役立ちます。ただし、早期のがんや極小の転移は検出が難しいこともあります。
大腸がんの治療
大腸がんの治療は、がんの進行度や患者の体力、状態に応じて選択されます。
主な治療法には、手術、抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療があり、進行度に応じて単独または組み合わせて行われます。
大腸がんのステージ
分類と治療方針
ステージ | がんの広がり | 主な治療法 |
---|---|---|
ステージ0 | 粘膜内にとどまる | 内視鏡治療(ポリープ切除) |
ステージⅠ | 筋層までにとどまる | 手術(大腸切除) |
ステージⅡ | 腸の外まで広がるが転移なし | 手術+補助的な抗がん剤 |
ステージⅢ | リンパ節に転移あり | 手術+抗がん剤(術後補助療法) |
ステージⅣ | 他の臓器に転移あり | 抗がん剤+放射線+手術(症例による) |
手術療法(外科的治療)
(ステージ0)
内視鏡的切除
(早期がん)
がんが粘膜内にとどまるステージ0の早期大腸がんに対しては、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が行われ、ポリープやがんを内視鏡で切除することで治療が可能です。
この方法は開腹手術が不要で体への負担が少なく、回復も早いというメリットがあります。
腹腔鏡手術・ロボット支援手術
(ステージI~III)
筋層まで進行した大腸がんでは、がんがある部分を切除し、正常な腸をつなぎ合わせる手術(吻合)が行われます。
腹腔鏡手術では小さな傷口で手術が可能なため、回復が早く体への負担が少ないのが特徴です。また、ロボット支援手術(ダビンチ手術)を用いることで、より精密な操作が可能になり、治療の精度が向上します。
これらの方法は、開腹手術と比べて患者の負担が軽減され、術後の回復がスムーズになるというメリットがあります。
開腹手術(進行がん・腸閉塞)
(ステージII~IV)
進行した大腸がんで腫瘍が大きい場合や腸閉塞を引き起こしている場合、さらに他の臓器へ広がっているケースでは、開腹手術による大腸の切除が必要になります。
状況によっては人工肛門(ストーマ)を造設することもあり、がんが広範囲に及んでいる場合には、隣接する臓器も一緒に切除することがあります。手術後の回復には時間がかかるほか、合併症のリスクも伴うため、慎重な術後管理が求められます。
抗がん剤治療
(化学療法)
進行がん(ステージIII・IV)や手術後の再発予防のために使用。
状況に応じて、術前・術後・転移がんの治療として使われる。
術後補助化学療法
(ステージII・III)
がんの再発リスクを減らすために抗がん剤が使用されます。
治療には飲み薬や点滴による投与があり、患者の状態やがんの進行度に応じて選択されます。手術後にがん細胞が残っている可能性があるため、それらの増殖を抑え、再発を防ぐことが目的です。
転移・再発がんの化学療法
(ステージIV)
がんの進行を抑えるために、全身に作用する抗がん剤が使用されます。
標準的な治療法としては、点滴や飲み薬を組み合わせた治療が行われます。また、がん細胞だけを狙う薬(分子標的薬)を併用することがあり、がんの増殖を抑えたり、がんに栄養を供給する血管の発達を妨げることで、より効果的な治療を目指します。
放射線治療
(ステージIV)
進行した直腸がんでは、手術の前後に放射線治療を行うことがあります。
手術前に放射線を照射することでがんを縮小し、手術をしやすくすることが目的です。また、手術後に再発を防ぐために追加の照射を行う場合もあります。さらに、がんが転移している場合には、痛みを和らげる目的(緩和治療)で放射線を使用することもあります。直腸は骨盤内にあるため、放射線が比較的効果を発揮しやすい部位とされています。
緩和治療
(進行がんの症状を和らげる)
進行がんや転移が広がっている場合、根治が難しくなることがあります。
そのため、痛みや不快な症状を軽減し、生活の質(QOL)を向上させることを目的に緩和治療が行われます。腸閉塞や出血の症状に対してはステントの挿入や人工肛門の設置が検討され、食事の工夫や栄養管理を通じて体力の維持をサポートします。
患者ができるだけ快適に過ごせるよう、症状に応じた治療が行われます。
大腸がんの治療における
人工肛門(ストーマ)
大腸がんの手術では、がんの進行度や切除範囲によって、人工肛門(ストーマ)が必要になることがあります。
これは、腸の一部を腹壁に開き、便を排泄するための代替肛門です。
大腸がんの予防
大腸がんは生活習慣の改善や定期的な検診によって予防できる可能性が高いがんの一つです。
特に食生活の見直し、適度な運動、禁煙・節酒、定期的な検診が重要なポイントになります。
バランスの良い食事を
心がける
食物繊維を多く含む食品を摂取する
(野菜・果物・豆類・全粒穀物など)
腸内環境を整え、便通を促進し、発がん物質の排出を助ける。
発酵食品
(ヨーグルト・納豆・漬物など)を取り入れる
腸内の善玉菌を増やし、腸の健康を維持する。
赤身肉や加工肉
(ベーコン・ソーセージなど)の摂取を控える
過剰摂取は発がんリスクを高める可能性があるため、適量を意識する。
脂っこい食事を控える
高脂肪食は腸内で胆汁酸を増加させ、大腸の炎症を引き起こすリスクがある。
適度な運動を取り入れる
運動不足は大腸がんのリスクを高める要因の一つです。適度な運動を続けることで腸の動きを促進し、がんのリスクを軽減できます。
- 1日30分程度のウォーキングや軽い運動を習慣にする。
- デスクワークが多い人は、こまめに体を動かすことを意識する。
- 筋トレやストレッチを取り入れることで、代謝を上げる。
禁煙・節酒を心がける
喫煙や過度な飲酒は、大腸がんの発症リスクを高めることが分かっています。
- タバコはがん全般のリスクを上げるため、禁煙が推奨される。
- アルコールの過剰摂取は腸内の炎症を引き起こしやすいため、適量を守る。
定期的な検診を受ける
大腸がんは早期発見・早期治療が可能ながんの一つであり、定期的な検診が重要です。
- 40歳以上は年1回の便潜血検査を受ける。
- リスクが高い人(家族に大腸がん患者がいる・腸の病気がある人)は、医師と相談のうえ大腸カメラ検査を受ける。
生活習慣を整える
ストレスや不規則な生活も大腸の健康に影響を与えるため、規則正しい生活を心がけることが大切です。
十分な睡眠をとり、体のリズムを整える。
- ストレスをためないよう、適度なリラックスや趣味の時間を持つ。
- 規則正しい食事と排便習慣を意識し、便秘や下痢を予防する。