潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)は、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらん(ただれ)や潰瘍が形成される慢性炎症性腸疾患の一種です。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す寛解(かんかい)と再燃(さいねん)の波があることが特徴で、長期間にわたる管理が必要です。
潰瘍性大腸炎は、国の指定する難病の一つです。根治に至る治療法が確立されておらず、原因も明確に解明されていませんが、適切な治療により症状をコントロールすることは可能です。
潰瘍性大腸炎の
難病指定について
潰瘍性大腸炎はただちに命に関わるものではありませんが、長期間の治療が必要であり、再燃と寛解を繰り返すため、患者の生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。そのため、国が支援し、原因や病態の解明、治療体系の確立を進める目的で難病に指定されています。
指定難病に該当することで、一定の条件を満たせば医療費助成制度の対象となり、患者の経済的負担が軽減される支援が受けられます。
潰瘍性大腸炎の症状
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に炎症や潰瘍ができる慢性炎症性腸疾患で、寛解と再燃を繰り返すのが特徴です。
消化器症状
血便・粘血便
便に血が混ざる、または鮮血が出る
下痢
1日10回以上の頻回の下痢が続くこともある
腹痛
排便前後に下腹部の痛みが起こる
便意切迫感
強い便意を感じるが、少量しか出ない
全身症状
貧血
血便による鉄欠乏でめまいや倦怠感
体重減少・栄養不足
下痢や食欲不振で栄養が吸収されにくい
発熱
炎症が強いと38℃以上の発熱
腸外症状
関節炎
膝や足首の痛み・腫れ
皮膚症状
結節性紅斑や壊疽性膿皮症
目の炎症
ぶどう膜炎、結膜炎
口内炎・肝機能障害がみられることも
症状の進行度
(重症度)
軽症
- 排便回数:1日4回未満
- 軟便または軽い下痢
- 血便はほとんどないか、ごく少量
- 腹痛は軽度またはなし
- 貧血なし、発熱なし
中等症
- 排便回数:1日4~6回
- 血便が増える
- 軟便や下痢が続く
- 軽度の腹痛や違和感がある
- 軽い貧血、体重減少
重症
- 排便回数:1日6回以上
- 大量の血便(鮮血が混じる)
- 激しい下痢
- 強い腹痛や頻繁な便意
- 貧血が進行し、疲労感や息切れを感じる
- 38℃以上の発熱
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎の明確な原因は完全には解明されておらず、免疫異常・遺伝的要因・環境要因などの複数の要因が組み合わさって発症すると考えられています。
免疫異常(自己免疫反応)
本来は異物を攻撃する免疫が、誤って大腸の粘膜を攻撃し、炎症を引き起こす。
腸内細菌に対する異常な免疫反応が関与している可能性がある。
遺伝的要因
家族内発症がみられることがあり、遺伝的な要素が関与。
特定の遺伝子が、発症リスクに影響を与えるとされる。
環境要因
食生活の変化
高脂肪・高タンパクの欧米型の食事がリスクを高める。
腸内細菌の異常:腸内フローラ(腸内細菌のバランス)の乱れが免疫異常を引き起こす可能性。
感染症
特定のウイルスや細菌感染が発症の引き金になることも。
ストレス
直接の原因ではないが、発症や悪化の要因となる。
その他の要因
喫煙
喫煙が潰瘍性大腸炎のリスクを減らすとの報告もあるが、健康リスクを考えると推奨されない。
また、同じ炎症性腸疾患であるクローン病では喫煙が発症のリスクとなります。
薬剤の影響
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗生物質の使用が腸内環境を変化させ、発症リスクを高める可能性がある。
潰瘍性大腸炎の
検査・診断
大腸カメラ検査【最も重要】
- 大腸の粘膜を直接観察し、炎症や潰瘍の有無を確認する。
- 特徴的な所見:びらん、潰瘍、偽ポリポーシス(炎症後の隆起)、血管の消失。
- 生検(組織採取)を行い、顕微鏡で粘膜の異常を確認。
血液検査
- 炎症の有無(CRPや白血球の増加)。
- 貧血の確認(出血による鉄欠乏性貧血)。
- 栄養状態の評価(アルブミン低下など)。
便検査
- 便潜血検査:血便の有無を確認。
- 便中カルプロテクチン:腸の炎症マーカーとして有用。
- 感染症の除外:細菌・ウイルス感染の有無を調べる。
画像検査(補助的)
- 腹部レントゲン検査:重症例では大腸の拡張(中毒性巨大結腸)を確認。
- CT・MRI:合併症(腸穿孔、膿瘍)の評価や、クローン病との鑑別に使用。
- 画像検査による精密検査が必要と医師が判断した場合には、連携する医療機関をご紹介させていただきます。
潰瘍性大腸炎の
診断基準
- 大腸カメラ検査で特徴的な炎症所見がある
- 組織検査で慢性炎症が確認される
- 感染性腸炎など他の疾患を除外する
潰瘍性大腸炎は他の病気と区別することが重要であり、内視鏡+生検が確定診断の鍵となります。
潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎の治療は、現在完治に導く内科的な治療はありませんが、腸の炎症を抑えて症状を軽くし、その状態を維持すること(寛解)が目的です。
基本的には薬による治療が中心ですが、症状が重い場合には手術が必要になることもあります。
薬による治療
(基本の治療)
症状の程度に応じて、次のような薬が使われます。
炎症を抑える薬
(腸の粘膜を守る)
軽い症状のときに使う薬で、腸の炎症を抑え、再発を防ぐ効果があります。
飲み薬や、直腸に直接届く坐薬や注入するタイプもあります。
強い炎症を抑える薬
(ステロイド)
症状がひどいときに短期間使われます。
効果は強いですが、長く使うと副作用が出ることがあるため、慎重に使われます。
また、局所で炎症を抑えるステロイドもあり、こちらに関しては効果はマイルドですが副作用が比較的少ないことが特徴です。
免疫の働きを調整する薬
免疫の過剰な働きを抑え、腸の炎症を抑えるための薬です。
効果が出るまで時間がかかりますが、再発を防ぐために使われます。
新しいタイプの薬
(生物学的製剤)
ほかの薬で効果がなかったときに使われる治療法です。
体の免疫バランスを整える働きがあり、症状を落ち着かせる効果があります。
手術による治療
薬で症状が抑えられない場合や、大腸がんのリスクが高い場合は手術をすることもあります。手術が必要な場合には、連携する高度医療機関をご紹介いたします。
潰瘍性大腸炎の再発予防
瘍性大腸炎の再発を防ぐためには、薬の管理・食事・生活習慣の改善が大切です。
薬の服用を続ける
症状が良くなっても、自己判断で薬をやめないことが重要です。
医師の指示に従い、炎症を抑える薬を継続して服用することで再発を防ぎます。
食生活の工夫
腸に負担をかけない食事を心がけましょう。
避けたほうがよい食品
- 脂っこい食べ物(揚げ物、脂肪の多い肉など)
- 刺激の強いもの(香辛料、アルコール、コーヒーなど)
- 消化に悪いもの(ごぼう、キノコ、海藻など食物繊維が多い食品)
お勧めの食品
- 消化しやすい食べ物(おかゆ、うどん、豆腐、白身魚など)
- 発酵食品(ヨーグルト、納豆など腸内環境を整える食品)
ストレスを減らす
ストレスは腸の調子を悪くし、再発の引き金になることがあります。
リラックスできる時間を作る(趣味、軽い運動、深呼吸など)
適度な運動をする
激しい運動は避けつつ、ウォーキングやヨガなど軽い運動を取り入れると腸の調子が整いやすくなります。
体調の変化に気をつける
便の回数が増えたり、血便が出たりしたら早めに医師に相談することが大切です。
定期的な検査(大腸内視鏡など)を受け、病気の状態をチェックしましょう。