過敏性腸症候群とは
過敏性腸症候群は、大腸や小腸に潰瘍や腫瘍などの明らかな異常がないにもかかわらず、下痢や便秘といった便通の乱れに加え、腹痛やお腹の張りなどの症状が現れる疾患です。
日本では、人口の約10~20%がこの病気を抱えているとされており、近年、社会の複雑化やストレスの増加に伴い、悩む人が増えていることが注目されています。
この症状は女性に多く見られ、特に思春期から中年期(20~40代)にかけて発症しやすい傾向があります。男性は下痢を主とするタイプが多く、女性は便秘型、または下痢と便秘を繰り返す混合型が多いとされています。発症にはストレスが深く関係していることが多いと考えられています。
過敏性腸症候群の症状
下痢型
- 急に強い便意を感じる
- 激しい下痢を繰り返す
- 1日に何度もトイレに行く
- 水のような便や粘液を含む便が出る
便秘型
- 腹痛やお腹の張りが続く
- 便秘を繰り返す
- 便がスムーズに出にくい
- 水分が少なく、コロコロとした硬い便が出る
混合型
- 便秘と下痢を交互に繰り返す
- ストレスの影響を受けやすく、お腹の調子が不安定になる
分類不能型
上記3つのタイプには当てはまらない症状がみられる
- おならの回数が多い、お腹の張りが強い場合は「ガス型」とも呼ばれる
過敏性腸症候群
セルフチェック
以下の項目に「はい」が多い場合、過敏性腸症候群(IBS)の可能性があります。
気になる症状が続く場合は、医療機関を受診しましょう。
お腹の症状について
- 腹痛やお腹の不快感が週に1回以上ある
- お腹が張ってガスが溜まりやすい
- 排便すると腹痛やお腹の不快感が軽くなる
- 下痢や便秘、または両方を繰り返す
- 突然トイレに行きたくなることがある
排便の特徴について
- 1日に何度もトイレに行く(5回以上)または数日間排便がない
- 水のような下痢が続いたり、硬い便が続いたりする
- 便が細くなったり、コロコロした便が多い
- 排便後もすっきりせず、残便感がある
生活への影響について
- 仕事や学校、外出時にトイレのことが気になる
- 食事やストレスによって症状が悪化する
- ストレスを感じるとお腹の調子が悪くなることが多い
- 検査を受けても、異常が見つからなかった
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の明確な原因はまだ解明されていません。多くの患者では、腸が刺激に対して過敏になっており、通常なら不快に感じない腸内ガスや腸の動きが、不快感や痛みとして認識されることがあります。
また、腸の動き(収縮)が通常よりも活発または異常なパターンを示すことが、排便の乱れに繋がる可能性もあります。
ただし、すべての患者で腸の異常な収縮がみられるわけではなく、症状と直接関係しているかは明確ではありません。一部のケースでは、胃腸炎を発症した後に症状が出ることもあります。
食事との関係
特定の食品が症状を悪化させることがあります。高カロリー・高脂肪の食事は特に影響しやすく、小麦、乳製品、豆類、チョコレート、コーヒー、お茶、人工甘味料、一部の野菜や果物も原因になることがあります。
これらの食品には、小腸で吸収されにくい炭水化物が含まれ、腸内で発酵しガスが発生することで、腹部の張りや痛みを引き起こすことがあります。
ただし、食事の影響には個人差があり、すべての人に当てはまるわけではありません。
ストレスやホルモンの影響
精神的な要因(ストレス、不安、抑うつ、恐怖など)や、一部の薬(下剤など)、ホルモンの変動が発作の引き金になることもあります。
しかし、必ずしもすべての患者に同じように影響するわけではなく、明確な要因がない場合でも症状が現れることがあります。
過敏性腸症候群の
検査・診断
診断を確定するためには、他の病気が原因でないことを確認することが重要です。
そのため、必要に応じて以下の検査を組み合わせて行います。
一般的な検査
血液検査・尿検査・便潜血検査
貧血の有無や炎症反応、腸内の出血がないかを調べます。
過敏性腸症候群の
治療
過敏性腸症候群の治療には、生活習慣の見直しが重要です。
主に食事療法や薬物療法を中心に、必要に応じて心理療法も取り入れます。市販の便秘薬や下痢止めを使用する人もいますが、症状や体質に合った適切な薬の選択や、副作用への注意が必要なため、医師に相談することをお勧めします。
生活習慣の改善
- 規則正しい生活リズムを整え、十分な睡眠と適度な運動を取り入れる
- ストレスをできるだけ減らし、心身に負担をかけすぎない生活を心がける
薬物療法
- 腸の動きを整える薬
- 腸内環境を改善する整腸剤
(プロバイオティクス) - 腹痛を和らげる薬、下痢や便秘に対応する薬
- 必要に応じて、抗不安薬や自律神経を調整する薬、漢方薬が処方されることもある
食事療法
- 1日3食、規則正しいバランスの取れた食事を意識する
- 暴飲暴食を避け、寝る前の食事や脂っこい食品は控えめに
- アルコール、香辛料、炭酸飲料、コーヒーなどの刺激物を控える
- 適度な水分補給を心がける
心理療法
過敏性腸症候群はストレスの影響を受けやすいため、ストレス管理が重要です。
- 不安や緊張を和らげる「リラクゼーション療法」
- ストレスへの対処法を身につける「ストレスマネジメント」
- 心理的なアプローチを組み合わせることで、
薬物療法だけでは改善しにくい症状の緩和を目指します
治療は症状に合わせた総合的なアプローチが必要なため、自己判断せず、医師と相談しながら適切な治療法を選択することが大切です。
過敏性腸症候群の予防
過敏性腸症候群(IBS)は、ストレスや食生活の影響を受けやすいため、生活習慣を整え、腸への負担を減らすことが予防の鍵となります。
以下のポイントに注意しましょう。
バランスの取れた食生活を
心がける
- 規則正しく食事をとる(1日3食を決まった時間に)
- 暴飲暴食を避ける(腸への負担を減らす)
- 消化に良い食品を選ぶ(脂っこいものや刺激の強い食品は控えめに)
- 食物繊維を適度に摂取する(便秘型の人は野菜や穀物を意識的に摂る)
ストレスを溜め込まない
- 適度な運動を取り入れる(ウォーキングやヨガなどでリラックス)
- 趣味やリラクゼーションの時間を確保する
- 深呼吸やマインドフルネスを実践する(ストレス軽減に効果的)
腸内環境を整える
- 乳酸菌や発酵食品を取り入れる
(ヨーグルト、納豆、味噌など) - 十分な水分補給を心がける
(1日5~2Lを目安に) - 必要に応じて整腸剤を活用する
規則正しい生活習慣を
維持する
- 十分な睡眠を確保する
(睡眠不足は腸の働きを乱す) - アルコールやカフェインを控えめに
(腸の刺激を減らす) - 急な環境の変化や不規則な生活を避ける
低FODMAP(フォドマップ)
食事法

低FODMAP食事法とは、過敏性腸症候群(IBS)や腸の不調を改善するために、消化管で発酵しやすい特定の糖類(FODMAP)を制限する食事療法です。
FODMAPとは、以下のような発酵性の短鎖炭水化物の総称です。
- Fermentable(発酵性)
- Oligosaccharides(オリゴ糖)
(小麦、大豆、玉ねぎ、にんにく など) - Disaccharides(二糖類)
(乳糖を含む牛乳、ヨーグルト など) - Monosaccharides(単糖類)
(果糖を多く含むリンゴ、はちみつ など) - And
- Polyols(ポリオール類)
(人工甘味料、キシリトール、さくらんぼ など)
推奨される食品
(低FODMAP)
【炭水化物(穀類)】
白米・玄米(適量)・そば・オートミール(少量)・グルテンフリー食品(米粉パン、とうもろこし粉など)
【たんぱく質(肉・魚・卵)】
鶏肉・豚肉・牛肉(加工されていないもの)・魚全般(サーモン・マグロ・タラなど)・卵・木綿豆腐
【乳製品】
ラクトースフリー牛乳・アーモンドミルク・ココナッツミルク(無糖)・ハードチーズ(チェダー・パルメザンなど)・ヨーグルト(ラクトースフリー)
【野菜】
ほうれん草・にんじん・なす・ピーマン・きゅうり・かぼちゃ(少量)・トマト(少量)
【果物】
いちご・ブルーベリー・ぶどう・みかん・キウイ(適量)・バナナ(熟していないもの)
【ナッツ・種子類】
くるみ・ピーナッツ・マカダミアナッツ
【調味料・飲み物】
塩・こしょう・オリーブオイル・醤油(少量)・純粋なメープルシロップ・ハーブティー(カモミール・ペパーミントなど)
避けるべき食品(高FODMAP)
【炭水化物(穀類)】
小麦・ライ麦を含むパン・パスタ・シリアル・全粒粉食品
【たんぱく質(肉・魚・卵)】
ソーセージ・ハムなどの加工肉(玉ねぎやニンニクが含まれることが多い)・レンズ豆・大豆製品(特に絹ごし豆腐・大豆ミート)
【乳製品】
牛乳・普通のヨーグルト・ソフトチーズ(リコッタ・クリームチーズなど)
【野菜】
玉ねぎ・にんにく・キャベツ・ブロッコリー・カリフラワー・アスパラガス・マッシュルーム
【果物】
りんご・洋ナシ・スイカ・さくらんぼ・桃・プルーン
【ナッツ・種子類】
カシューナッツ・ピスタチオ
【調味料・飲み物】
はちみつ・人工甘味料(ソルビトール・マンニトール)・果汁100%ジュース・炭酸飲料・アルコール
過敏性腸症候群に
関するQ&A
どんな人が過敏性腸症候群になりやすい?
過敏性腸症候群(IBS)は、ストレスや緊張しやすい人、生活習慣が不規則な人、暴飲暴食や偏った食生活をしている人に多く見られます。また、ストレスを感じるとお腹の調子が悪くなる傾向がある人や、消化管の動きが敏感な人は発症しやすいと考えられています。
過敏性腸症候群はどこが痛くなるの?
過敏性腸症候群では、おへそ周りや下腹部に痛みや不快感を感じることが多いです。痛みの程度や場所は人によって異なり、お腹の張り(膨満感)やガスが溜まる感じを伴うこともあります。また、排便すると痛みが軽減するのが特徴的です。
過敏性腸症候群を放っておいたらどうなる?
生命に直接関わる病気ではありませんが、症状が慢性化して日常生活に支障をきたすことがあります。例えば、外出先での腹痛や下痢が怖くなり、行動範囲が狭まる、仕事や学業に集中できなくなるなどの影響が出ることがあります。また、長期間放置すると、腸内環境の悪化やストレスの蓄積により、さらに症状が悪化する可能性もあるため、適切な対策や治療を行うことが重要です。
過敏性腸症候群は難病ですか?完治しますか?
過敏性腸症候群は難病には指定されていません。また、がんや炎症性腸疾患のような重大な病気ではなく、適切な治療や生活習慣の見直しで症状を改善できることが多いです。ただし、ストレスや食生活などの影響を受けやすいため、一度良くなっても再発することがあります。完治する人もいますが、長期的に付き合っていく必要があるケースもあります。
過敏性腸症候群は精神疾患ですか?
精神疾患ではありませんが、ストレスや不安が症状を悪化させる要因となるため、心の状態と深く関係しています。過敏性腸症候群の患者さんは、脳と腸の連携が過敏になっている(脳腸相関の異常)ことが原因の一つと考えられています。そのため、心理的なストレスを軽減することで、症状が改善することがあります。
過敏性腸症候群は1日に何回トイレに行くのでしょうか?
個人差がありますが、下痢型の場合は1日に5回以上トイレに行くこともあります。また、便秘型では数日に1回しか排便がないこともあります。交替型(下痢と便秘を繰り返すタイプ)では、日によって排便回数が変わることも特徴です。いずれの場合も、日常生活に支障をきたすほどの頻度が続く場合は、医師に相談することをお勧めします。
過敏性腸症候群に市販薬(ビオフェルミンなど)は有効ですか?
市販薬は症状の軽減には役立つことがありますが、根本的な治療とはなりません。ビオフェルミンのような整腸剤は腸内環境を整えるために一定の効果が期待できますが、すべての人に有効とは限りません。また、下痢止めや便秘薬を自己判断で使い続けるのは、症状を悪化させる可能性があるため注意が必要です。過敏性腸症候群の治療には、生活習慣の見直しや、医師の指導のもとでの薬の使用が重要になります。
ロキソニンは過敏性腸症候群に効きますか?
ロキソニン(ロキソプロフェン)は、過敏性腸症候群(IBS)そのものには効果がありません。
ロキソニンは解熱鎮痛剤(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)であり、炎症や痛みに対して効果がありますが、IBSの原因となる腸の機能異常やストレスによる影響を改善する薬ではありません。
ロキソニンは過敏性腸症候群の腹痛には適さず、むしろ症状を悪化させる可能性があります。過敏性腸症候群による痛みには、腸のけいれんを抑える抗コリン薬や腸の運動を調整する薬が適しているため、自己判断でロキソニンを使用せず、医師に相談して適切な治療薬を選ぶことが重要です。